【水上太陽光発電所とは?】メリットとデメリット、日本で活用が進む理由を紹介
近年注目されている再生可能エネルギーを活用した発電事業のひとつ、太陽光発電。
太陽光発電所の大規模なものは、広い土地を利用したり、山林を造成したりして設置されます。
日本は、他国に比べて国土面積が狭く、大規模な太陽光発電システムを設置できる土地が少ないという問題があります。
そこで活用が進められているのが、水上に設置する「水上太陽光発電」です。
水上太陽光発電は、ため池や貯水池が多い、日本の地理的条件を活用した発電システムといえます。
今回は、水上太陽光発電のメリットやデメリット、設置を検討するときに押さえておきたいポイントなどを解説します。
目次
【水上太陽光発電所とは?】メリットとデメリット、日本で活用が進む理由を紹介
水上太陽光発電所とは
水上太陽光発電所とは、ため池やダム、貯水池など、水上に設置された太陽光発電システムです。
水上ソーラーなどともいわれ、水面に太陽光パネルを浮かせる形で設置されます。
専用の水上フロート(浮力を持った架台)を設置し、フロートの上に太陽光パネルを取り付け固定させる方法などが一般的です。
フロートは、風で流されたり飛ばされたりしないように、ため池の底に埋め込まれたアンカー(錨)とつながれています。
水面を利用する水上太陽光発電は、国土面積の限られた日本で特に導入が進められ、世界中のおよそ半分の水上太陽光発電が、日本に設置されています。
水上太陽光発電は、農業用の水を確保するために造成された「ため池」などを活用して設置されることが多く、ため池の有効活用としても注目されているシステムです。
ため池は、全国に約20万ヵ所あり、特に西日本に多く造成されています。
日本の水上太陽光発電所はどのくらいあるの?
日本国内では、およそ70件の水上太陽光発電が導入されています(2022年9月現在)。
そのうち、半分近くを占める32件の水上太陽光発電が設置されているのが、兵庫県です
瀬戸内海に面した地域は、降雨量が少なく、農業を営むために欠かせなかったため池が数多く作られてきました。
全国にあるため池の、約20%が兵庫県、特に淡路島に集中しています。
水上太陽光発電は、その「ため池」を活用し、導入が進められてきました。
香川や徳島なども、水上太陽光発電が兵庫に続いて多く、ため池が活用されています。
参考:カーボンニュートラルに貢献する河川整備事例調査
(リバーフロント研究所報告 第 33 号 2022 年 9 月 )
また、千葉県市原市の山倉ダムには、日本で最大の水上太陽光発電所「千葉・山倉水上メガソーラー発電所」が建設され、2018年から運行しています。
約5万枚の太陽光パネルが使用され、5,000世帯分ほどの電力が供給されています。
水上太陽光発電所のメリット
水上太陽光発電所のメリットは多く、主に次のようなものが挙げられます。
・発電効率が下がりにくく維持しやすい
・損害物が少ないため影ができにくい
・土地の造成工事が不要
・水上太陽光発電は設置可能な場所が多い
・水利組合にとってもメリットがある
それぞれ解説します。
発電効率が下がりにくく維持しやすい
水上に太陽光パネルを設置することは、陸上の設置よりも困難に感じられます。
しかし、水上だからこその利点もあり、そのひとつに「パネルの表面温度が上昇しすぎない」ということがあります。
太陽光発電は、一般的に、日照時間が長く気温も比較的安定した5月頃(春から初夏)が、発電量を一番確保しやすい時期といわれています。
7月や8月など、日照時間が長くても気温が高くなる夏は、発電効率が悪くなってしまいがちです。
太陽光パネルは、表面温度25度が適温といわれていますが、真夏などはパネルの表面温度が上昇しすぎてしまいます。パネルの温度が上がりすぎると、電圧が低下し発電効率が下がってしまうため、パネルの温度を下げる必要があるのです。
水面は、地面よりも温度が低く、表面温度が上昇しすぎることを防げるため、温度管理の面で大きな強みとなります。
さらに、日照時間の長い夏場の発電量を確保できることは、水上太陽光発電の大きなメリットです。
地上設置に比べて発電効率が上がるだけでなく、冷却システムなどの手間やコストの削減にもつながります。
損害物が少ないため影ができにくい
太陽光発電は、パネルに太陽光が当たることで発電するため、太陽光を遮るような障害物があると、発電効率が下がってしまいます。
ため池やダムなどの水上は、太陽光を遮ってしまうような障害物が少なく、太陽光発電にはもってこいの環境です。
太陽からの光を吸収しやすく、発電効率を保ちやすいという大きなメリットがあります。
さらに、水面からの太陽光の照り返しで、光をより多く集めることができる点もメリットです。
土地の造成工事が不要
水上太陽光発電は、水上を活用するため、設置する際に土地の造成をする必要がないことも大きなメリットです。
通常、地上に設置する「野立て太陽光発電」は山林を利用することが多く、造成工事が大規模なものとなります。木を伐採し伐根(木の根を掘り起こして抜き取ること)し、土地の造成をする必要があり、工期も長くなります。
また、山林を切り開くことは、環境破壊にもつながり、開発には限界があります。
一方、水上太陽光発電は、そのような土地造成の必要がなく、フラットな水面に設置できることが大きなメリットです。
さらに、ため池や貯水池を有効活用できるという利点が注目されています。
水上太陽光発電は、雑草の除草作業の手間もなく、管理面でのコストや手間の削減につながる点も魅力です。
水上太陽光発電は設置可能な場所が多い
全国には、ため池が約20万ヵ所あるといわれ、そのうち、少なく見積もっても1割ほどのため池で、水上太陽光発電を設置することが可能と考えられています。
実際には、ため池やダム以外にも、塩田跡地や鉱山跡地などへ設置されたこともあり、水上太陽光発電は、さらに広い場所での設置が見込まれています。
しかし、水上太陽光発電は施工実績が少なく、設置が可能と考えられる水上空間が利用されていないのが現状です。
ため池は、釣り堀や魚の養殖場などに活用されることもありますが、活用されていない場所もたくさんあり、管理にコストや手間がかかっています。
水上太陽光発電を設置する場所としては、水質、水面の面積、水深など、いくつかの条件をクリアする必要がありますが、耕地に次ぐ発電ポテンシャルが残されているのが、ため池などの水上です。
設置条件を満たすような未活用の水面を、水上太陽光発電で有効に活用することが期待されています。
水利組合にとってもメリットがある
水上太陽光発電の導入は、水利組合(※1)にとってもメリットがあります。
水上に太陽光パネルを設置することで、太陽光の日差しを遮り、水温の上昇や水の蒸発を抑えるため、水不足対策の役割も担います。
さらに、アオコや藻などの発生を抑える効果も見込まれます。
アオコは、水の流れの少ない場所で増殖することが多く、ため池などの水が富栄養化した環境(主に農薬や肥料などに含まれる窒素やリンが原因)で大量に発生します。
アオコは光合成をすることで増殖していきますが、太陽光パネルが日光を遮断し、アオコの光合成を抑える効果が見込まれています(※2)。
水上太陽光発電は、大切な水の蒸発を抑え、アオコや藻の増殖を防ぐなど、ため池の管理にとってもメリットのあるシステムとして注目されています。
※1
水利組合とは
灌漑(かんがい)・排水のための諸施設の維持管理を行う組合。
引用:コトバンク 水利組合
※2
水深の浅い沼や湖では、水草が減少することで水中の栄養が残ってしまい、植物プランクトンが増殖して水質が悪化してしまう可能性もあります。
水上太陽光発電所のデメリット
水上太陽光発電は、水上に設置されるという点での問題点があり、デメリットもあります。
主なデメリットを4つ解説します。
・設置業者の施工経験が少なく業者不足
・野立て太陽光発電所とは違う災害対策が必要
・水位変動により漏電対策が必要
・保守点検が難しい
設置業者の施工経験が少なく業者不足
水上太陽光発電は、野立てや住宅用の太陽光発電などの陸上に設置するものに比べて、施工数そのものが少なく、施工実績の豊富な業者が少ない現状があります。
そのため、工期が長くなってしまうことや、工事の質に大きな差が出てしまうこともあります。
野立て太陽光発電所とは違う災害対策が必要
水上太陽光発電は、増水や渇水など、地上の太陽光発電でのトラブルとはまったく違った問題が起こります。
そのため、水上なりのトラブルや災害対策が不可欠です。
フロート架台が流されないようにするための係留設計は、極めて重要です。
以前、大型台風による強風で太陽光パネルが煽られ、アンカーが耐えられずに外れてしまい、損傷し火災につながってしまった事故が起きました。
台風や突風などの対策や、フロートから太陽光パネルが脱落しないよう検証する必要もあります。
水位変動により漏電対策が必要
水上太陽光発電は、水位の変動や風などでフロートが動くため、水上・水中での防水・漏電対策工事も重要です。
太陽光パネルを乗せているフロート架台は、風などで流されないよう、アンカー(錨)とつなげられています。ただし、水面は上下するため、ケーブルには余裕を持たせてつなげられています。
水中はもちろん、水面でも水位の変動に対応できるよう、ケーブル類やパワーコンディショナーなどすべての部品に、厳重な防水、耐食処理が必須となります。
保守点検が難しい
太陽光発電は、定期的な設備の保守点検やメンテナンスが大切です。
しかし水上太陽光発電は、陸上に比べて保守点検が難しいというデメリットがあります。
潜水によるアンカーやケーブルの点検や、ボートに乗って点検を定期的に行う必要がありますが、天候にも左右され、点検のコストもかかります。
ドローンを使用して太陽光のパネル面を点検する方法もあり、将来的には水中もロボットやドローンを使って点検できるようになれば、人が潜水してチェックする手間も省けると見込まれています。
➤関連記事:太陽光発電のメリット・デメリットとは?仕組みや特徴もチェック
水上太陽光発電所は保険が必要?
太陽光発電には、一般的にメーカー保証がついています。
保証期間は10年~15年ほどのものが多く、保証には「製品保証」と「出力保証」があります。
「製品保証」は設備に対しての保証で、「出力保証」は太陽光パネルの出力に対する保証です。
出力の値が規定値よりも低くなってしまった場合、パネルの修理や交換が無料で行われます。
しかし、一般的にメーカー保証には、自然災害による故障の補償は含まれていません。
台風や豪雨、落雷や大雪など、思わぬ災害への備えとして、任意保険への加入を検討する必要があります。
自然災害だけでなく、盗難にあったときの被害や、第三者への損害(パネルの破損で、第三者に傷害を与えてしまったときなど)を考える必要があります。
さらに「休業損害補償保険」という保険で、修理が完了するまでの売電ができない期間の損失を補うこともできます。
自然災害や思わぬ事故などに備え、必要な保険を考慮し、加入を検討しましょう。
水上太陽光発電所にはフェンスは必要?
太陽光発電を設置した場所は、周囲をフェンスで囲むことが義務付けられています。
感電などの事故防止や安全管理、いたずら防止対策として、簡単に人が入ることができないようにするためです。
しかし、次のような2つの例外があります。
・フェンス、柵がなくても第三者が近づくことができない場合
・畑の上部の空間を利用したソーラーシェアリングなど、営農型太陽光発電でフェンス、柵があると邪魔になる場合
水上に設置される水上太陽光発電は、簡単に立ち入ることができる場所ではないため、フェンスの設置は義務付けられていません。
ただしこのような場合には、人が近づいて事故を起こさないよう、発電設備が設置されていることを示す注意喚起の標識を掲示する必要があります。
詳しくは事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)の「周辺環境への配慮」を参照ください。
まとめ・日本のエネルギー供給として期待される水上太陽光発電
エネルギー資源の乏しい日本において、自国でまかなえるエネルギーの確保は大きな課題です。
太陽光や風力などを活用する「再生可能エネルギー」は、環境への負荷が少ないだけでなく、自国でのエネルギー生産が可能なことも大きな魅力です。
発展途上ともいえる水上太陽光発電は、日本のエネルギー供給の一助として、これからますます導入が期待されています。
太陽光発電用の土地売買をお考えの方は、ぜひお気軽にエネうるまでお問い合わせください。